見えない部分に宿る精度|吉成木材 × 漆作家 後藤香奈

美しい漆器を手にしたとき、私たちの視線はどうしても表面に向かいます。
艶やかな光沢や、繊細な模様、そして木目の美しさ。
けれど、その一枚の器が持つ完成度は、実は裏側によって大きく左右されています。
漆器は、塗りだけで成立するものではありません。
木材の選定、木工加工の精度、そして漆の技法。
それらが重なり合って、はじめて一つのプロダクトとして成立します。
今回ご紹介するのは、漆作家・後藤香奈さんと、私たち吉成木材が取り組んだ木製プレートの加工事例です。
そこには、木工技術がどのように漆器の価値を支えているのかが、明確に現れていました。
「シンプルな形」ほど、精度が問われる
今回のプロジェクトの起点となったのは、一見すると非常にシンプルな平らなプレートでした。

木目を美しく見せる形状でありながら、日常の食卓にも取り入れやすい。
そのバランスを追求した結果、後藤さんがこだわったのが「裏面の設計」です。

手に取ったときに、自然と指がかかること。
置いたときに、わずかに浮いたような軽やかさが生まれること。
そのために必要だったのが、プレート裏面への斜めカット加工でした。
しかしこの加工は、単純な削りではありません。
四方向すべてにおいて、同じ角度・同じ面積・同じ精度で仕上げる必要があります。
わずかなズレでも、見た目の印象は崩れ、手に取ったときの感覚も変わってしまう。
つまりこの加工は、「見えない部分で全体の質を決める工程」だったのです。
なぜ木工加工が、漆の仕上がりを左右するのか
漆器において、木工と漆は切り離せるものではありません。

後藤さんの作品で用いられている「拭き漆」という技法は、木目を活かしながら漆を重ねていくものです。
そのため、木の状態や加工精度が、そのまま仕上がりに反映されます。
たとえば、柔らかい木材は漆を吸い込みやすく、落ち着いた表情になります。
一方で、欅のような硬い木は、木目がはっきりと残り、透明感のある仕上がりになります。
さらに、木地の精度が低いと、塗りムラや光の歪みとして現れてしまう。
つまり漆器は、塗りの工程に入る前の段階で、すでに品質の大部分が決まっているとも言えます。
木工加工は「下地」ではなく、仕上がりそのものに直結する工程なのです。
「できない」と言われた加工から始まった
このプレートの加工は、当初、他の木工職人に相談されていました。
しかし、裏面の複雑な角度加工は「対応が難しい」と断られてしまいます。
そのとき思い出していただいたのが、吉成木材の存在でした。
以前、大子町での出会いの中でお伝えしていた
「木の加工なら何でも相談してください」という一言。
その言葉をきっかけに、今回のプロジェクトが動き出しました。

実際の加工では、試作を重ねながら最適な方法を模索。
既存のNC加工だけでは再現が難しい部分については、建具職人とも連携しながら精度を追い込んでいきました。
加工とは、単に形をつくることではなく、
どうすれば成立するかを考え続けるプロセスでもあります。
見えない部分にこそ、技術の本質がある
完成したプレートを手に取ると、裏側の加工はほとんど意識されません。
けれど、持ち上げたときの指のかかり方や、
テーブルに置いたときの安定感、そして全体のシルエットの美しさは、
すべてこの裏面加工によって支えられています。

私たち吉成木材の役割は、作品の完成度を高めるために、
見えない部分で精度をつくり込むこと。
それが、木工加工の本質であり、私たちの仕事です。
今回の取り組みを通じて、木工と漆の組み合わせには、まだ多くの可能性があると感じています。
量産では難しい形状や、一点ごとに木目を見ながら設計するプロダクト。
NC加工を活かした自由なフォルムや、異素材との組み合わせ。
木工加工の技術があることで、漆器の表現はさらに広がっていきます。
10年後へつながるものづくり
現在、後藤さんは漆を育てるための畑づくりにも取り組まれています。
その一部を、吉成木材としてお手伝いしています。

10年後、その畑から採れた漆と、私たちの木工加工によって生まれる器。
素材の“始まり”から関わることで、
ものづくりはさらに深い意味を持つものになるはずです。
木工加工・OEMのご相談について
吉成木材では、木製品の加工・開発・OEMに対応しています。
木製プレート・食器の製作
精度を求められる特殊加工
小ロットでのプロダクト開発
など、用途に応じてご提案可能です。
木に関する加工でお困りの際は、ぜひご相談ください。
